選択肢は3つあり、そのうち治療法は2つです。
1つは従来より行われている方法として全身麻酔をかけて頭の皮膚を切り頭蓋骨を一部取り除いて脳動脈瘤を顕微鏡下に見て瘤をクリップする方法です。
動脈瘤
チタン製のクリップで動脈瘤を閉鎖します
問題なく動脈瘤をクリップできました
念のため、大事な血管が閉塞していないか
術中造影剤を使って確認しています
もう1つが今回紹介するもので血管内手術による治療法です。
麻酔は足の付け根の部分に行う局所麻酔のみとし、そこから約100cmのカテーテルを血管に入れ脳の血管付近まで運びます。そしてその中にさらに細いカテーテルを入れ脳の動脈瘤の中に留置できたところで白金製コイルを同動脈瘤内に充満させ血流を遮断し、破裂を予防する方法です。
これらはもちろん保険適応の治療です。
カテーテル先より出ているらせん状のコイル。
これを脳動脈瘤の中にゆっくり詰めこんでいきます。
もうひとつはなにもせず様子を見る(いわゆる経過観察)という選択肢です。脳動脈瘤が絶対破裂するというわけではないのです。ひょっとしたら残りの人生で破裂しないかもしれない。確率はごらんのとおり非常に低いのですから。一方手術による合併症は0%ではないのです。
しかし、いくら統計上での確率が低くても不安は拭い去れないわけでそのようなときはさきほどお話しした2つの治療法があります。
この血管内手術は局所麻酔下で行えるので、高齢で全身状態の良くない人には全身麻酔による危険性は考える必要がなく有効な治療法です。
しかし現在のところ脳動脈瘤の部位、形によってはコイルによる塞栓が不可能なものもあります。そのような時どうしても治療を望まれる場合には外科手術しか方法がありません。
またうまく詰まっても数ヶ月するとコイルが血流により圧迫され小さくなることがあります。(コイルコンパクションと言います) その時には再治療が必要になることもあります。そのためうまく脳動脈瘤を処理できても半年以内に脳血管撮影による塞栓効果の確認が必要です。
以前、脳外科医、神経放射線科医などの間で脳動脈瘤に対してどちらの治療を優先すべきか議論が行われていました。しかし2005年、世界的に権威のある論文にて”破裂脳動脈瘤治療に関しては従来のクリッピング術よりコイル塞栓術の方が治療1年後の治療結果が良い”という結果が発表されました。
International Subarachnoid Aneurysm Trial (ISAT) of neurosurgical clipping versus endovascular coiling in 2143 patients with ruptured intracranial aneurysms: a randomised trial.
Molyneux A, Kerr R, Stratton I, Sandercock P, Clarke M, Shrimpton J, Holman R; International Subarachnoid Aneurysm Trial (ISAT) Collaborative Group.
ただ従来より行われていた脳動脈瘤クリッピング術と違い、コイルによる塞栓術は新しい治療ゆえにまだ長期的な成績が出ていないという問題点が残っていたのですが、2006年当初の予測通り、Strokeという権威ある医学雑誌に標準的なコイル治療は長期的成績もクリッピング術と同等であったという論文が発表されました。これにより今ではコイル治療がまず最初に検討されるべき手術方法であるという時代になっています。
Rates of delayed rebleeding from intracranial aneurysms are low after surgical and endovascular treatment. 2006
Predictors of rehemorrhage after treatment of ruptured intracranial aneurysms: the Cerebral Aneurysm Rerupture After Treatment (CARAT) study Johnston SC, Dowd CF, Higashida RT, Lawton MT, Duckwiler GR, Gress DR, CARAT Investigators. 2008
さらに、コイル素材の改良(Matrix 2、CERECYTE コイル)、頭蓋内ステント (Enterprise . ・Neuroform※. ・Wingspan※.)などの使用によって、今まで非常に手術が困難だった動脈瘤(解離性動脈瘤、血栓化巨大動脈瘤、後方の大型脳動脈瘤など)が脳血管内治療できるようになるでしょう。
※ 米国: 2005 年 8 月 、 欧州: 2005 年12 月にて認可され、世界37カ国で使用される。しかし本邦では2010年9月現在も厚生労働省に認可されていない。)
コイル治療はクリッピング術より予後の改善が期待できること、直接脳を触らないためそれによる合併症(感染、水頭症、脳血管れん縮)の発症率が非常に低いことは確かであると思います。
またこれは治療を受ける側にとって大事なことですが、施設によって脳動脈瘤手術の治療成績が異なります。その施設ではどちらの方が良いかなどを確かめて選択する必要があります。