ここに挙げた具体的治療例は脳血管内治療のうちのごく一部です。他にもケースによっては脳血管内治療の方が良いと思われることもあります。それについては、当院で詳しくお話しすることができます。
20年前と比較しますと脳卒中医療は格段に進歩しました。今回お話したような脳血管内治療はその代表です。脳血管内治療の分野はメスやドリルを使用する脳外科手術とは異なる新しい分野と言えます。その低侵襲でかつ非常に効果的であるこのような治療法は今後もまだまだ発達し広がっていくことでしょう。
最近施行されるようになった頚動脈ステント、頭蓋内ステントの治療もその一つです。私の指導医でありました高知医大脳神経外科 森 貴久 先生(現在、湘南鎌倉総合病院 脳卒中診療科部長)は世界初、頭蓋内ステント留置術を成功させ、神経放射線科領域、脳外科領域に技術革新をもたらしました。当時高知にて同じ仕事に従事し、その成果に驚嘆しました。そしてこの治療法は近い将来脳卒中治療の中心になると確信したものです。
この方法はその後急速に発達し米国をはじめ、全世界的で施行され頭蓋内狭窄病変の新たな一つの治療法としてさらに発展しつつあります。日本はこの頭蓋内血管狭窄病変に対する治療をその必要性から先覚的に施行しながらも、有効性を確証するための治験手順の未発達、厚生労働省による医療器材の認可スピードの問題、自由な発想を製品にするベンチャー企業の少なさ、国内カテーテル産業が未発達であるなどの社会的背景により、10年経過した現在、欧米に追い抜かれてしまった感が否めません。本邦では遅ればせながら、平成20年4月より頚動脈ステント(米国製)は保険適応手術となりましたが、残念ながら頭蓋内ステントに対して未だ保険適応が認められず公平にみなさんにお勧めすることができません。
急性期の脳卒中画像診断の発展も脳卒中医療に大きく貢献しています。しかし脳梗塞はその限られた治療時間から、どの一般病院でもある程度の迅速な判断が必要です。
この問題点を解決すべく、我々は特にCT(dynamic・perfusion)を使用した急性期脳梗塞診断を確立し現在臨床に役立てています。その一部は長久 公彦らが欧州神経放射線学会誌に紹介しています。
さて、最近の脳血管内治療における最近のトピックスとして、欧州にてISAT研究、CARAT研究、の結果があります。破裂脳動脈瘤治療成績(治療1年後)は、コイル塞栓術(脳血管内治療の一つ)の方が従来のクリッピング術より術後の後遺症を残す割合が少ない、さらに長期成績についてもクリッピングと同等である。という内容です。
この結果からコイル塞栓術が動脈瘤治療の中心になっています。
これら血管内治療手技は心臓でも行われているカテーテル治療と基本的に同じです。しかし脳血管は心臓よりさらに繊細である点など、心血管と異なる点もあります。従って、その注意点を十分認識した専門医師が治療すべきです。
脳血管内治療の効果には劇的なものがありますが、一方で危険性も従来の脳外科手術と同じくらいあります。その点を十分に理解してから治療を受けることをお勧めします。
最後に、我々は特にこの血管内治療において自信をもって治療にあたっています。なにか、不明な点等ありましたら、当院にてご相談ください。
長久病院
TEL : 079-237-5252 FAX : 050-3737-7063
E-mail : kchokyu@hotmail.com
Semiquantitative dynamic computed tomography to predict response to anti-platelet therapy in acute cerebral infarction.
Chokyu K, Fukumoto M, Mori T, Mokudai T
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Short-term arteriographic and clinical outcome after cerebral angioplasty and stenting for intracranial vertebrobasilar and carotid atherosclerotic occlusive disease.
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